【街金は見た!】借りる側の論理——他人の不動産を担保にする男《抵当権の順位は問わず貸します!》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【街金は見た!】借りる側の論理——他人の不動産を担保にする男《抵当権の順位は問わず貸します!》

【テツクル半生記⑥】あのころ、ぼくは、若かった。

 ◼︎借りた金は返さない、返さなくてもなんともない人

 トントン拍子に進む契約。
 それは突然のことでした。
「Aさん、ではあなたのアパートに1000万円の抵当権を設定しますので……」
「ああああああ、テツクルさん! そうそう! あれ!」
「は? Bさん、何なの?」
「あれ、えっとですね、あれ! ちょっといいですか!」
 Bさんに部屋の外に連れ出されるぼく。部屋に取り残されるAさん。
 
「……ええとですね、すいません、わたしが借りる額のこと、Aさんに内緒にしてもらえます? ほら、1000万借りるとか言っちゃうと断られちゃうんで」
「は? 無理だよ、そんなの。ちゃんとAさんにもサインしてもらう書類あるんだから」
「そこをなんとか、なにとぞなにとぞ……」
「はー? 無理無理無理」
 押し問答をしながら部屋に戻ると、不審げにこちらを見るAさん。
「あ! 大丈夫! 全然大丈夫!」
 Bさんが汗だくでAさんに言い訳をします。
 
「えーっと、じゃあもう一度説明しますね。Aさんが担保提供するアパートに1000万の……」
「おおっと、テツクルさん! なんか冷房弱くないですか! 汗止まらなくて!」
「いいですけど……というか声大きいすよ。聞こえるから」
「ああっと! ごめんごめん! 電話かかってきた!ちょっと待ってて!」
 ボタボタ汗をかきながら部屋を出るBさん。
 部屋に残されたぼくとAさん。Bさんの不審な行動もあり、気まずい沈黙が流れます。
「Aさん、暑いですか?」
「……いえ、大丈夫です……ちょっとBさんと話してきてもいいですか?」
 AさんもBさんを追って部屋を出てしまいました。ぜんぜん帰ってきません。
 話がもめて、帰っちゃったかな。でも荷物は置いたままだしな。会社の前でもめごと起こされたら恥ずかしいな……。
 
 しばらくして、AさんとBさんが戻ってきました。まだ話はまとまってないようでした。
「だから話が違うじゃないか、さっきの人、1000万って言ってた」
「いや、違うんだって。実際はそんなに借りないから! 安心して!」
「じゃ1000万って何なの?」
「あれはね、1000万まで貸してもらえるってだけで、そんなに借りないから!」
「本当に⁉」
「当たり前でしょ! ぼくがAさんのこと騙したことある? ないでしょ?」
 部屋の入り口で話してるから全部聞こえます。
 Aさんは半ば諦めた様子で、
「はいはい、わかりました。ハンコ押せばいいんでしょ」
 そう言って、担保提供の契約書にハンコを押してくれたので、無事Bさんに1000万円貸しました。

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金融業

20代より金融業に携わる。福岡と東京で修行し、現在、池袋で金融業(街金)を経営。この道20年を超えるベテランで、自分が金融業に入るきっかけを書いた自叙伝『ぼくと街金』(note)が好評を博す。Twitterアカウント:@tetukuruixi


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  • テツクル
  • 2019.08.02